なんとなく書を持って町へ出よう。

社会人大学院生(教育学専攻)による読書記録

浜泰一・大塚啓太「体験活動奨励制度で必要な『体験』について」『第26回日本高校教育学会発表要旨』

 昨日までの勉強で日本の学校教育における「体験活動」は 2002年の学習指導要領改訂で脚光を浴びたことが理解できた。では、そこから現在に至るまでどのような道筋を辿ったのだろう?そこで、2018年の学会発表から現在はどのような問題意識で取り組まれているのか確認したい。以下、目次を示したのちに要約をおこなう。

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Ⅰー1 体験活動奨励制度で求められる「体験」の質と量(先行文献の研究)

Ⅰー2 青少年体験活動奨励制度の意義・目的(まとめ)

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▶体験活動奨励制度とはなにか。

 中教審(2013)「今後の青少年の体験活動の推進について(答申)」において、具体的施策として「体験活動推進プロジェクト」などの文科省事業を通して体験活動を推進する指針が示された。それをうけて、文部科学省の事業である「青少年の体験活動の評価・顕彰制度に関する調査研究」について教育支援人材認証協会が委託を受け、2013年度から「体験活動奨励制度」が開始された。これは、青少年(高校生・大学生)が「ボランティア体験」「運動体験」「教養体験」「自然体験」の4領域全てに一定期間継続的に取り組み、修了条件を満たした参加者が文部科学省から認証・表彰を受ける制度である。これは海外で先行して実施されている「英国エディンバラ公国際アワード」を参考に創設された。よって、体験活動奨励制度修了者は英国エディンバラ公国際アワードも取得することができるしくみになっている。

 体験活動奨励制度の終了要件は、ボランティア体験3か月、教養体験3か月、運動体験3か月であり、そのうち1つは6か月継続することが定められている。また、自然体験を1泊2日以上行わなければならない。

 以上の制度に対し、筆者は直接的に体験することがよいとする理由が示されていないことに問題意識をもち、体験活動奨励制度では何が期待され、そのために必要な活動の量と質を明らかにしたいと考え、以下に述べる先行文献の研究を行った。

▶体験活動で期待されていることはなにか。

 中教審答申では、コミュニケーション能力、自立心、主体性、協調性、チャレンジ精神、責任感、想像力、変化に対応する力、異なる他者と協働したりする能力、リーダー育成、規範意識道徳心等などの非認知スキルの育成が目的とされている。

Ⅰー1 体験活動奨励制度で求められる「体験」の質と量

▶まず、体験活動の「内容」と効果の関連性を概観する。

 ①の心理的な態度を扱った効果測定には松村(2014)の「主観的well-being 尺度」を用いた調査がある。横浜市の高齢者を対象に「自然とのふれあい」と感情には関連があるかを確認したのち、地域におけるコミュニケーション態度に言及している。

 まとめると「体験活動」は生徒の活動性をあげることが判明した。

 ②の学力または能力の向上については、

 降旗(2009)は「自然体験学習」は学習者の学力向上に結びつく根拠はないと示している。

 山田(2006)は農業体験学習を行った小学生を調査し、自然や生物への観察力が上がったことを示した。

 国立オリンピック記念青少年センター(2004)は自然体験活動をした小学生は課題解決能力が向上することを指摘した。

 まとめると、「体験活動」は生徒の学力をあげると考えられる。

 堀内(2014)は身体活動が学習者の集中力を喚起するためであると推理している。

▶次に、体験活動の量と効果を概観する。

 橘ら(2003)は7泊以上の長期キャンプの経験者に対する調査をおこない、克服的な内容が必要であるという推測を述べた。

 時・明石(2012)は5泊6日の自然体験および教科学習をおこなったところ「心理的社会能力」「徳育的能力」「身体的能力」が増強されたと報告している。

 宮里(2009)は2か月間のボランティアをした小学生には変容が見られなかったことを示した。このことから、2か月に1回の頻度では変容がおきないことが判明した。

 植田(2011)は1週間のボランティアをした中学生を調査し、他者を発見できた生徒には変容があったことを示した。

▶「ところで」文部科学省の体験活動奨励制度はイギリスのエディンバラ公国際アワードを参考にしてつくられている。このアワードの発案者は「クルト・ハーン」で、彼の「冒険教育」の理念に基づいている

 林(2011)は、冒険とは「リスクを認知したうえで、結果は約束されていないが、自らの力で困難を乗り越えることで広がるかもしれない可能性を求めて、自らの意志で立ち向かうこと」となっている。また、冒険が人を成長させる理由として「自分にとって居心地の良い場所と出ていくとどうなるか分からない場所との境界で自分と戦い、自分

自身を大きくしていくことで人は成長する」として「エッジワーク」という考え方を紹介している。

▶現在の「体験活動」の問題点は以下のとおりである。

 森田(2004)は体験活動が野外レクリエーション中心の技術習得になっていることと、「ボランティア体験」「自然体験」「職業体験」などの活動が目的化してしまっていることを示した。

 荒川(2006)は小中高でボランティアを経験した大学生でも継続してボランティアをおこなうものはいないことを示した。 

Ⅰー2 青少年体験活動奨励制度の意義・目的

 以上から、この制度の意義は「生きる力」をつけることにあるといえる。しかし、具体的に何をどれだけすればよいのかは資料から読み取ることができなかったので引き続きの調査を必要とする。

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 体験活動に対する研究を 2018年においても行っている学生がいることを知って安心した。在籍は東京大学大学院とある。東大の学生が対象に選ぶのであれば、研究対象としては人の期待に応えないものではなかろうと裏書きをしてもらったような気になる。調べてみると新領域創成科学研究科自然環境学専攻自然環境景観学分野の博士課程4年生の方らしい(2018年時点)。日本教育新聞に「体験活動」に関する調査の記事が記載されていた。http://nenv.k.u-tokyo.ac.jp/nenv/wp-content/uploads/2017/10/20171002.pdf 研究の興味関心は「どのような学習観が環境学習の動機付けになるか」であることが述べられている。2017年に開発した環境学習に特有の8つの学習観を用いて体験学習の効果測定をおこなったことが報告されている。

 さて、その青少年体験活動奨励制度に関してはウェブサイト http://japan-youth-award.net/ があった。本制度は、2013年度から文部科学省の委託事業として試行されてきたが、2018年度に委託事業としては終了し、2019年度からは一般社団法人教育支援人材認証協会に「青少年体験活動奨励制度ワーキンググループ」が設置され、小中学生を対象とした「ジュニア版」と、高校生・大学生を対象とした「シニア版」が「平成30年度青少年体験活動奨励制度」として実施される。2018年度までの事業内容は【文部科学省委託事業「体験活動推進プロジェクト」 青少年体験活動奨励制度 報告書】がある。

 活動の条件は「部活動を含めてもよい」「14歳以上ではじめ、25歳の誕生日までに活動を終える」「アドバイザーとの連絡を月1回程度とりあう」「自然体験に関しては、1泊2日の宿泊やキャンプを実施し、1日6時間、2日間で最低12時間の活動、またはウォーキングの場合は2日間で24㎞を制覇する」「学校単位で参加することも可能である」など決められている。

 「英国エディンバラ公国際アワード https://www.intaward.org/about-the-award」に関する公式の日本語のサイトは見当たらない。したがって、これも読む時間をとって確認しよう(いつか‥)。

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 荒川裕美子・保住芳美・吉田浩子(2006)「小・中・高等学校におけるボランティア体 験と大学生のボランティア観の関連」『川崎医療福祉学会誌』16(1), pp133-139

 植田嘉好子(2011)「『夏のボランティア体験』への現象学的アプローチ―参加生徒からみた体験の意味と『他者』への接近-」『日本福祉教育・ボランティア学習学会研究紀要』17, pp26-39

 国立オリンピック記念青少年センター(2004)「青少年の自然体験活動等に関する実態調査」『平成15年度調査報告書』

 時代・明石要一(2012)「体験活動が子どもたちに与える影響―2年間の体験活動事例を通して―」『千葉大学教育学部研究紀要 60』pp121-122

 橘直隆・平野吉直・関根章文(2003)「長期キャンプが小中学生の生きる力に及ぼす影響」『野外教育研究』6(2), pp63-76

 林綾子(2011)「冒険教育」『野外教育の理論と実践』杏林書院.

 降旗信一・宮野純次・能條歩・藤井浩樹(2009)「環境教育としての自然体験学習の課題と展望」『環境教育』19(1), pp3-16

 堀内明子(2014)「子供の身体活動実践による認知能力および学力への効果」『健康心理学研』27(1), pp63-76

 松村治(2014)「自然とのふれあいが多面的な主観的 well-being にあたえる影響―地域社会に対するポジティブな認知を含めて―」『健康心理学研究』27(2), pp113-123

 宮里智恵・神山貴弥・鈴木由美子・石井眞治(2009)「児童の愛他的態度育成のための継続型直接体験授業の効果」『日本工学学会誌』33(1), pp23-30

 森田勇造(2004)『生きる力―体験活動の重要性―』ぎょうせい p222

 山田伊澄(2006)「農業体験学習の取り組み方と教育的効果の関連性に関する分析」『農業問題研究』42(1), pp101-104