文部科学省がスーパーグローバルハイスクール(SGH)として指定する筑波大学付属坂戸高等学校の研究発表会に参加した。自分は課外活動に関心があるため、地域と学習の役割について討議する分科会Bを選択した。なかでも、以下、報告書と大会参加で見聞きしたことから学習したことをまとめる。
本報告書は、中央教育審議会(2016)「新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協議の在り方と今後の推進方策について(答申)」と文部科学省(2019)「地域学校協働推進授業報告書」は、高校生が「地域の活動に積極的に加わり、地域課題の解決に取り組む」ことは彼ら自身の学習の動機づけにつながると同時に、地方創生に貢献するとして積極的な推進が図られていること前提として示した。一方、その実現には、外部人材と目的や内容についての連携が不十分なため、充実した教育活動になっていない現状があり、高校生が行政の都合で「地域創生」の中心とされていることを問題視している。
そこで、本分科会では、問題の所在を新学習指導要領で刷新された「総合的な探究の時間」において、実社会や日生活の事象や現代社会の課題が探究対象とされているため地域の素材や地域の学習環境を積極的に活用することが期待されているという高校生の学習から見た地域とのつながりという観点から議論が展開された。文部科学省は、コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の枠組みの積極的活用や小・中学校の地域学校協働本部との連携を図ることなどにより地域社会と共にある学校を実現することを期待していることから、まず最初に、分科会開催高校ではどのような体制がとられているかについての説明がなされた。
外部連携のための留意点としては、まず、校長や副校長、教頭、総合的な探究の時間コーディネータ等の担当者が中心となり、外部人材等と連絡・調整の機会を設定すると同時に、教員が個別の外部教育資源の有効な活用を図る姿勢をもつことが重要である。また、校内に外部連携を効率的・継続的に行うための仕組みをつくることも考えられる。本分科会で示された配慮事項をまとめると以下のようになる。
1)日常的な関わり
2)担当者や組織の設置
3)教育資源のリスト
4)適切な打ち合わせの実施
5)学習成果の発信
1)は、大学や商工会議所、非営利団体等から社会人講師を招くなど学校から外部にかかわる姿勢をもち、信頼関係を通じて協力体制を築くことがあげられた。
2)については、校務分掌に地域連携部をつくり、地域との連絡協議会などの組織を設置し、地域の有識者/代表者と協議する場所と時間を設定している。
3)教育資源に関しては、小・中学校の地域学校協働がk津堂の枠組みを活用し、地域学校協働活動推進員の協力を得て、調整を依頼することもできる。
4)外部人材が詳細に教えすぎないよう、授業のねらいを明らかにし、どのような資質能力を育成するのかについての考えを共有する必要がある。
5)はアカウンタビリティにあたる。学校公開日や学校祭などの開催など積極的な情報の発信をして地域の理解をあおぐ。
実際には、当該校の「総合的な探究の時間」の地域学習の歴史は長く、市町村、小中学校、社会教育機関、大学、産業界、地域NPOと幅広い連携体制がすでに十分に敷かれていた。特に、専門学科を設置している総合高等学校であることから、農業や福祉など学習内容が地域のニーズに自ずと対応しており、連携は外部から申し込まれることが多く、生徒の希望で学校の側から接近したいときには社会連絡協議会に相談をするという体制をとり、教員がことさら動かなければならない段階は過ぎているようだった。
分科会では、参加者の領域に応じて6班をつくり、グループディスカッションがおこなわれた。自分は「継続ボランティアと地域」を選択した。
「継続ボランティア」は、2014年に市の社会福祉協議会と高校生のためのボランティアプログラムを共同で開発するボランティアセンターが中核となって運営されている。生徒は部活動とは別に自分の興味関心で旧来から行われている活動に参加したり、プロジェクトを立ち上げたりする。活動の例としては、下呂山町桂木ゆず収穫ボランティア、第二鶴ヶ島ゆめの園交流会ボランティア、子ども食堂「ひこうき雲」、埼玉県障碍者スポーツ大会などがある。報告書からは「年齢を超えたひととひととのつながりの大切さを感じているようである」「同質性の高いコミュニティにいる高校生が、多様な他者が地域に存在することを理解し、グローカルな視点で主体的に活動できるきっかけとなっている」とその教育効果が報告されている。
話し合いには、高等学校でボランティア部の担当をされている先生方が参加された。地域との連携構築については全体説明がなされていたので、話し合いの内容は「地域ボランティアの経験をいかに生徒の学びにつなげるか」という実施スキームに焦点がしぼられ、各校の先生の活動実践と課題が共有された。
自分が話し合いに参加して考えたのは以下3点である。
まず、継続ボランティアの実施にあたっては、総じて教育目標をかんがえておこなう視点がなかったことである。いかなる教育活動も教育目標があり、それに準じた評価(何が学べたのか/身についたのか)がなされなければならないと考えるが、それに関する質問をしたところ「目標は地域に愛される学校づくり」であり、「特別な評価基準があるわけではなく、通知書に積極的な参加があったと記載する」という話があった。ボランティアなど生徒が主体となる活動は、リーダーシップや国際性の涵養など非認知スキルを身につけるために行なわれていると考える。「積極的な参加があった」というのは、何も表していないのではないだろうか。参加者のなかからは、一回だけおこなった校外のごみ拾いに関しても「積極的な活動をおこなった」という記述をすることもあるという事例が示された。
次に、継続ボランティアの振りかえり(リフレクション)に不十分さが見られたことである。学校行事ではなく個人の参加であることもあり、体験することのみをよしと考える傾向があるようである。ポートフォリオ評価についての理解もまだ浸透しておらず、それを利用した形成的評価についても知識のない先生が少なからずいることが考えられる。また、リフレクションをおこなっている学校でも、毎回書いていれば自ずと深い学びになるはずであるという希望的観測にもとづいておこなわれていた。近年はフィードバックなど経験学習の方略も充実してきているだけに残念に思われた。リフレクションに関するよい要素としては、先輩からの引継ぎノートがあった。活動内容の改善から見方考え方まで記録されており、次の活動に役立てられていた。
最後に、教員間で活動に対する理解度に温度差が見られたことである。分科会が終了してから、人数分に足りないため配布されなかった配布資料をいただくことができた。そこには「自己評価の確認項目」というクライテリアが記載されており「成績評価」(成果達成度、プロセス達成度)、「能力評価」(企画・計画、実行力、対応力、改善力)、態度評価(責任性、積極性、協調性)が項目として挙げられていた。また、活動時にもちいた「調査・活用メモ用紙」「活動記録用紙」「年間計画」「活動報告」も添付されていた。活動評価をおこなうためのルブリックもあり、その項目には「記述内容」「構成」「インタビュー結果」「調査結果」「全体的なまとまり/論理的構成」が挙げられていた。ここまで丁寧な学習の手立てがありながら、ディスカッションのなかではこの内容についてはまったく触れられなかったのは、資料の作成者またはリーダーは教育内容に習熟しており、十分な理解をもってフォームを作成しているが、実施レベルの先生には伝わっておらず形骸化があったことが考えられる。理論をふまえたフォームがあることは重要であるが、それがどのように機能するかの検証は必要であると考えた。
ーーーーーー
というわけで、分科会に参加して、現場はまだまだ経験学習についての認識が十分になされていないことを知るとともに、JRC(日本赤十字)にはまた異なるボランティアのスキームがあるようであるという情報を得た。また機会があれば、その赤十字のスキームを調べてみたいと思う。おつかれさまでした。